「起承転結」で構成を考える

どこに向かって何を描けばいいのかが分かる

変化を描いていくのには「起承転結」という構成を使いこなしてほしいと思っています。「序破急」、「起承転結」、ハリウッドでは「三幕構成」といったように物語の構成を考える方法論はいくつかありますが、シナリオ・センターでは、起承転結で説明しています。右ページの起承転結の図を見たことがある人は多いと思います。多くの人が言葉や概念は知っているでしょうが、これを使いこなせるようになることで、ドラマチックにできますし、ムービーを作っている人からすると、自分たちがどこへ向かって何を描けばいいのかということがはっきりします。構成にはちゃんと機能があって、それを理解しておこうということです。

起承転結のなかで一番重要なのはどこでしょうか? これは「物語のつくり方」でも書いていることですが、それぞれ重要ですが、物語を考える順番としては「転」から考えるとやりやすいと思います。「転・結・起・承」という順番です。ただ、ショートドラマの場合は「結」だと思っています。ショートドラマの「結」の機能については後でご説明します。

まず「転」ですが、ここが物語のクライマックスになります。そしてここでその物語の伝えたいテーマが明確になります。たとえば桃太郎の話でいうと、テーマとしては、「友情は大切だ」ということを伝えたいとしたら、どうしますか? 「やっぱり友達は大切だよな」というようなセリフを言わせてしまってはいけません。それこそ説教くさくなりますし、いまさらそんなことを言ってどうするの? という感じでしらけてしまいますよね。ドラマチックにするためには、テーマは無言で伝える必要があります。頭ではなく心で感じてもらうようなシーンを作ること。これまでイヌ、サル、キジと一緒に鬼と闘ってきたけど、絶体絶命のピンチになったときに本当に心を通い合わせて鬼に勝つというシーンでしょうか。

そして「結」はイヌ、サル、キジと桃太郎と肩を組んで帰っていく。見ている人は、桃太郎のやつ、最初は友達なんていらないという態度だったのに、ついに気がついたんだなと感じます。もしかしたら、人によっては違うふうに感じるかもしれません。見ている人にいろいろな感じ方を引き出せるわけです。作っている側としては明確にテーマを押し付けたくなるのですが、そこは無言にすることで、見ている人に感じてもらうというシーンを作るわけです。



物語の構成(全体像)

ドラマ作品の構成図。左から始まって右で終わるという時間軸で、グラフは物語の盛り上がりを示す。「起」で物語の設定を提示し、「承」で盛り上がっていき、「転」でクライマックスを迎える。「結」で伝えたいことを定着させて、余韻を持たせて終わる。
「テーマ」はこの作品で訴えたいこと。クライマックスで「テーマ」を伝えたいとすると、最初はその「アンチテーゼ」から入ると良い。




テーマに対してのアンチテーゼ

ではどうやって物語をはじめるのか。テーマに対してアンチテーゼから始まるとよいというのが法則です。テーマに対する逆です。つまり、「友達なんて必要ないぜと考えている桃太郎」という描き方、もしくは「友達は欲しいけど友達を作れる状況にない桃太郎」という描き方。ここでテーマとアンチテーゼの落差をどれくらいにするのかというのは、描きたい物語のケースにもよるかと思います。必ずしも落差が大きいほうがいいというわけではありません。だから真逆にしなきゃいけないと考える必要はありません。

ただ行きたい方向に対してどうなるんだろうって思って視聴者を引きつけたいので、テーマに対して逆のところから入っていくという風に考えるといいでしょう。

「承」は一番長く話の7割から8割くらいなることもあります。ここがだらけてしまうと面白くなくなる訳ですね。

ここは「Aという考え方や状況の主人公がBになる」(左ページ図参照)というところを描いていくところなので、どういう事件が起きれば、友達なんていらないと思っている桃太郎が、やっぱり友達は大切だなと感じさせるテーマのほうにどんどん近づいていくかと考えるわけです。そうやって逆算して考えていくとやりやすいんじゃないでしょうか? 最初と最後が決まっていて、それぞれの登場人物のキャラクターが明確になっていれば、どんな出会い方をすればいいんだろう、どんな事件があるといいんだろう、ということがどんどん浮かんできて、シーンでのアクションとリアクションが自由に動き出したりするわけです。

シナリオ・センターを創設した新井 一氏。シナリオ・センターの教室にはこの写真が飾られている。



ショートドラマは「結」で余韻をもたらす

「結」はショートドラマでは最も重要だという話をしました。結の役割というのは定着と余韻です。今の2時間映画の場合、結はワンシーンくらいしかなくて、ここが長いと間延びして映画が長く感じられてしまうので、ほんとに短くてもいい感じになっていて、それこそ1、2分しかないこともあります。「転」で伝えたテーマを感じてもらう、前述の桃太郎なら「やっぱり友達って大切だよな」ということを感じてもらうシーンを描くということです。

短いPR動画ではそこが最も重要になります。視聴者に商品を買ってもらいたい、旅行に行ってもらいたいという明確な目的がありますから、この映像を見終わって視聴者にどんな気持ちになってもらいたいか、どんなアクションを起こしてもらいたいのか充分に考えなければなりません。

その場合もセリフではなく映像で余韻を残せればより強くなります。シナリオ・センターではよく「セリフではなくト書きで終わりましょう」という指導しているのですが、たとえセリフがあったとしても、そのセリフを言ったあとの顔が見たいからです。そちらのほうが余韻が伝わるのです。




朝ドラの1回分、15分を研究してみる

この構成の考え方というのは短い作品でも使えますし、それこそ10分、15分のシークエンスにも応用できます。つまりシーン、シークエンス、ストーリーラインは入れ子構造になってるんです。それがわかりやすいのが朝ドラです。毎日ひとつのシークエンスで、1週間でひとつのストーリーラインになります。朝ドラ全体のストーリーだけでなく、ストーリーライン、シークエンスごとに起承転結があるというわけです。朝ドラなどはシナリオの研究用の材料として見てもいいと思います。





もっと効率化できる! シナリオづくりのアドバイス

ここから先はシナリオ・センターでふだんからお伝えしていることで、忘れられがちなことをいくつかポイントを押さえてお話ししたいと思います。

「天地人」とは?

シナリオ・センターでは「天地人」という用語を使っています。起承転結の「起」の部分は、アンチテーゼを表現すると同時に、天地人を伝える役割があるよと伝えています。

「天」とは時代のことです。そのお話はいつの時代なのか。ここを何も考えていないシナリオは案外あります。そして「地」とは、物語の舞台となる場所のことです。東京の下町なのか、高知の山の中なのか。同じ喫茶店だとしても東京の下町と六本木と、名古屋の喫茶店ではなんとなく違うじゃないですか? 実際にそこで撮るかどうかは別にして具体的にアイデアを出していくこと。当然、そこでの登場人物のセリフも変わってきますよね。

「人」は登場人物ということです。登場人物のキャラクター設定の重要性についてはすでに触れました。「起」の段階で天地人をしっかり伝えることができないと、視聴者は物語の世界に入っていくことができません。これは主人公がなにをしようとする話なのかということは、天地人という項目で考えるとクリアになるでしょう。



「起」の部分で天地人をしっかり伝えること

天地人を変えると、同じテーマであっても異なる物語になる。また天地人それぞれから発想を広げていくこともできる。




「柱」を大切にする

みなさんのシナリオを読んでいて気になるのは、「柱」をあまりに考えていないなということです。

今の日本でよく使われているシナリオは、上のように、「柱」と「ト書」と「セリフ」でできたスタイルのものですが、これはシナリオ・センターを創設した新井 一が作った書式です。「柱」というのも新井 一の発明です。ここが1行目に来て、しかも罫線で囲われているのは、おそらく新井 一にはここでしっかり立ち止まって考えてほしいという意図があったのではないか、と新井 一オタクでもあるわたしは思うわけです。

どこをドラマチックにするのか、それはシーンだ、というお話を最初にしましたが、映像作品にとって、シーン、つまりどこでアクションとリアクションが行われるかは非常に重要ですよね。映像には「どこ」なのかと「誰が」いるかしか映っていないのですから。

シナリオを書きたい人はセリフを書きたいので、ついそちらばかり考えてしまいます。でも場所というのは、自分の生活を考えてもわかりますが、会話にものすごく影響を与えます。たとえば駅が舞台だとして、それはホームなのか改札なのか、駅員が前にいるのかどうか、といったところにまで発想を広げてほしいと思います。

もちろん、いざ撮影するとなったら制約というのはあります。セットを作らないと撮影できないとか、豪華絢爛な部屋なんて予算がないといったように、制約はつきものですが、シナリオを学ぶ段階ではそういった制約は考えないほうがいいと思います。制約のない状態で作ってみて、実際に撮影するとなったら、そのときに直していけばいいわけです。柱の段階で発想が広がるか、限定させるかが決まってくるので、シナリオの段階では発想を自由にするためにも、しっかりとこだわって場所を考えるとよいと思います。

日本のドラマ、映画の現場で使われているのがこの書式。シナリオは柱、ト書、セリフの3つからできている。業界で使われているドラマのシナリオはサイズ(判型)も統一されており、上のほうは、演出や技術スタッフが書き込みができるようにスペースが設けられている。







「葛藤」を短く描くコツ

起承転結の「承」の部分は、作品の大半を締める部分で、主人公が障害にぶちあたって葛藤しているところを描く部分です。視聴者はそこに感情移入していくわけです。

ただ葛藤の部分をセリフで長々とやっていると、どうしても時間がかかるし、かったるいときがあります。ショートドラマだったら、そこをもっと短く描きたいと思うでしょう。

たとえばこんなシーンがあります。テレビ局のADが大きなネタを掴んで、それを報道したいと思うが、大物政治家が絡んだ事件で上司は忖度して取り上げてくれない。ADからすると上司は障害になるわけですね。そんなことをしたら、お前はここにいられないぞと言われる。そういったことを会話でやりとりしてもいいのですが、なんか単調で長くなってしまいます。

そこをグッと短く描くにはどうしたらいいでしょうか? たとえばADの右手に握られた企画書を悔しそうに握りつぶすようなカットを撮影する。これで上司との葛藤を描けるわけです。

次にそこでスマホが鳴る。主人公がふと見ると奥さんと子供の写真が壁紙になっている。そのカットで、自分の生活のためにも首になるわけにはいかない、ということが表現されます。長々とセリフで伝えなくても、2カットで描写できてしまうわけです。シナリオを書きたい人は、どうしてもセリフで表現したくなりますが、ショートドラマの場合は特に必要になってくるテクニックだと思います。




登場人物の設定を考えるときに

シーンを描く時に登場人物のキャラクター設定が重要だというお話はしました。ではその登場人物の設定はどうやって考えていけばいいのでしょうか? 登場人物は自分の代弁者ではダメですし、何も考えてないとそれこそ誰でも言いそうなことしか言わない人物になってしまいます。

シナリオ・センターでは、「性格」「憧れ性」「共通性」という3つの軸を考えることを提唱しています。この軸を作ったら、その人のビジュアルを考えていく。どんな服装をしているのかなど具体的なところにどんどん落とし込んでいく。必ずしも履歴書のようなものを作る必要はないのです。

たとえ細かく設定を作ったとしてもそれをシナリオで全部表現する必要はありません。たとえば『となりのトトロ』のお父さんってどういうことを研究しているか知ってますか? 縄文時代の稲作についての論文を書いてるそうです。知らないですよね(笑)。ただその設定でお父さん像をイメージできるわけです。イメージを作るためにキャラクター設定は必要なのです。



登場人物を考えるときの軸

キャラクターについて最初から細かく考えてしまうとぼやけてしまうので、最初に上の3つの軸を考える。「性格」はシンプルに、しかしデフォルメして考える。「憧れ性」は視聴者が憧れてしまう面、「共通性」とは視聴者が自分と同じだなと思う面。





「テーマ」は小学生が言いそうなことで良い

その作品で何を訴えたいのか。それが「テーマ」です。テーマについては、P.36で触れました。ここは難しく考えてはいけません。それこそ友情は大切だとか、男女の友情は成立するかとか、その程度のもので全然構わないのです。テーマはふたつ以上ではなく、必ずひとつにすべきです。物語の方向性がつかめなくなってしまうからです。

その内容は高尚なものではなく、ひねったものでないほうがいいと思います。自分はもっと複雑な感情を伝えたいという人もいるかもしれませんが、テーマ自体は小学生が言いそうな単純なものが良いのです。それをセリフとして言わせるのではなく、無言で感じさせるのがドラマの面白さなのですから。

テーマがなぜ必要なのかというと、視聴者のためでもありますが、どちらかというと作り手が道に迷わないためです。テーマは物語のクライマックスである「転」で伝えるものであり、ここを目指していく旗印だからです。



まとめ〜「どう書くか」という方法論は利用する

ここまで短い時間でしたがシナリオ・センターで教えているシナリオづくりのポイントをお話ししてきました。ここまでノウハウができているなら、シナリオは自動化できるのではないか、それに従ったらありふれたものしかできないのではと思われた方もいらっしゃるかもしれません。

「物語のつくり方」の最初に書いたことですが、シナリオの創作とは「何を書くか」と「どう書くか」の掛け算です。「何を書くか」というのは、みなさんのなかにあるものです。書きたい世界や伝えたいもの、見たいものは、人それぞれ違います。それはシナリオ・センターでも教えませんし、教えてはならないものです。みなさんにブレずに持っていていただきたいと思います。

しかし「どう書くか」には理屈があります。そこは軽視することなく、積極的に利用したほうがいいと思います。効率化して時間短縮できるというだけでなく、より高い表現力を早く身につけることができます。方法論を利用することで枠にはまってしまうと心配する人は、使いこなしていないからです。使いこなせるようになれば作家性も伸びます。まずは確立された技術を持ち帰っていただきたいと思っています。










A.

出だしのパターンとしては、ふたつあります。「張り手型」と「撫で型」です。張り手型というのは、アクション映画に多いパターンです。『ミッション・インポッシブル』でトム・クルーズが飛行機にしがみついているシーンから始まる。いきなりドキドキするシーンなわけです。これはインパクトがあるから引きはありますよね。

一方で「撫で型」というのはホームドラマでよくあるパターンですね。ある家庭の朝の様子が描かれる。お母さんが朝食の準備をしていると、子供が起きていて、それぞれのキャラクターや背景がわかるような描写が描かれていくのはありがちだと思います。たしかにこちらの「撫で型」の出だしだとすると2時間映画はいいとしても、TikTokではインパクトがなくて飛ばされてしまいますね。

「撫で型」だとしてもインパクトを持たせる手法というのはあります。それはいきなりキャラクターを見せることです。たとえば家庭的に見えるお母さんが朝ごはんの用意をしているが、いきなり冷凍食品を取り出して雑に料理し始める(冷凍食品が悪いわけではないですよ)。そうすると実はものすごく忙しい人なのかなと思わせて食いつかせることができる。

もしくはもっとインパクトが与えようとするなら、料理をしていたら突然、料理に唾をつけたと(笑)。単に今思いつきで言ったのですが、謎の行動ですよね。何だろうと思わせる謎が入ってくると、興味が湧いてくると思います。





A.

僕は登場人物から作るといいかなと思います。キャラクターですね。物語というのは、主人公が行動することによってテーマを伝えていくわけです。まだテーマが見えてないとしたら、まずは登場人物を作ってみる。どんな登場人物なのかが見えてくると、ではその人がどんなことをしていくのかということが見えやすくなるかもしれません。

こんなことが伝えたい、伝えられたらいいなと漠然とあって、それを伝えるにはどんな人だったら伝えやすいかなみたいな感じで、伝えたいことと登場人物を考えてもいいかもしれません。

テーマは重要ですが、それを先にやっていくと、肝心の登場人物が都合良く動く話になってしまうので、そうしないためには、まずちゃんとキャラクターを考え、その登場人物にどんな山を登らせようかと考える、という順番がいいでしょう。




A.

動画制作を想定して「いきなり効果があがるPR動画の作り方」(言視舎)という本があります。まだKindleで読めると思います。「600字書ければ何でも書ける!1億人の超短編シナリオ実践添削教室」(柏田道夫/言視舎)はTikTokくらいに短い動画に向いたシナリオの実例がたくさん載っていてオススメです。